夜、北の空を見上げると、五つほどの明るい星が連なって、大きな「W」のように見えることがあります。
それが、カシオペア座です。
この印象的な星の並びには、古代ギリシャ・ローマの神話と星座伝承の中で、ひとりの王妃の物語が重ねられてきました。
カシオペアは、神話上のアイティオピアを治める王ケフェウスの妻であり、王女アンドロメダの母とされる人物です。
彼女は自らの美しさを誇り、海のニンフであるネレイデスたちよりも美しいと語った、と伝えられています。
ただし、この部分には別の伝承もあります。
カシオペア自身ではなく、娘アンドロメダの美しさこそネレイデスをしのぐのだと自慢した、とする物語も残されています。
その自慢は、海のニンフたちの反感を招きました。
やがて王国は海からの災厄に見舞われ、恐ろしい怪物まで現れたと伝えられています。
災いを終わらせるため、人々が選んだのは残酷な方法でした。
王女アンドロメダを、海の怪物への犠牲として差し出すというのです。
アンドロメダは海辺の岩につながれ、怪物が現れるのを待つことになります。
そこへ通りかかったのが、メドゥーサを倒した帰りの英雄ペルセウスでした。
彼はアンドロメダを見つけ、海の怪物に立ち向かい、彼女を救い出します。
そして、ふたりは結ばれました。
物語の登場人物たちは、その後、夜空にも名を残しています。
カシオペア。
ケフェウス。
アンドロメダ。
ペルセウス。
今も、それぞれの名前を持つ星座が、同じ北の空の一帯に並んでいます。
遠い昔の人々にとって、夜空はただ星が散らばる場所ではなく、物語の登場人物たちが暮らす、大きな舞台でもあったのでしょう。
カシオペアには、もうひとつ少し不思議な伝承があります。
彼女は星座となったあとも、椅子に座った王妃の姿で天を巡っていると考えられました。
けれど、空が回るにつれて、その姿はときに逆さまになります。
それは、自らの美しさを誇った高慢さへの罰なのだ――。
古代の星座神話では、そんなふうにも語られてきました。
けれど、今の私たちが夜空で見つけるのは、王妃の姿そのものではありません。
北の空に浮かぶ、五つの星がつくる「W」の形です。
今度、夜空を見上げることがあったら、北の空にその形を探してみてください。
その星々の向こうには、
王妃と王女と英雄をめぐる物語を、夜空に重ねて眺めていた人々の時間があります。
何千年ものあいだ見上げられてきた空を、
今夜はほんの少しだけ、同じように眺めてみてもいいかもしれません。